INTERVIEW 役員・所属長インタビュー 主婦と生活社がしていること

想定外の事象が多いこれからの出版社に

必要なのは「機動力」

デジタルコンテンツ事業部長

八代 善剛

Yashiro Yoshitake

コロナ禍で出版業界の環境はどう変わったか 

毎年年初と初夏、専門紙から電子書籍動向のヒヤリングを受けています。そのまま記事になることは少ないのですが、こういう取材は自分の考えをまとめるいい機会にもなるので、データを作ったり記者の話を聞いたりしていると「このストア、かなり伸びているな」とか「今後はこのサービスに注目しないと」とか、新たな気づきがあるんですね。まあこれは私だけではないと思いますが特にコロナ禍以降のここ数年、出版業界は大きな変化を感じていますよね。当社もコミックが大きく伸長し、出版がコンテンツビジネスであることを再認識もしました。

ウェブトゥーンに注目しています

最近でいえば「ウェブトゥーン」と「MDAM」。前者はタテコミとも呼ばれる縦スクロールのコミックですでに韓国では主流となっていますが、日本はまだまだこれから(みなさんの認知度はどうでしょうか)。私としてもいくつかの理由でヒットするかどうか懐疑的でしたが現在は一刻も早くに進めないと、と考えています。疑問に思った理由の一つがそもそもストアが少ないこと…だったのですが、これからの電子コミックは海外展開とセットで考える必要があることは間違いなく、大手コミック系ストアや電子取次もこぞってそれを表明しているんですね。ウェブトゥーンは通常の電子書籍に比べて制作に費用も時間もかかるため、昨今では制作スタジオの奪い合いになっているとも聞きます。

「くまクマ熊ベアー(タテコミ)」

MDAMで雑誌の入稿・校了もオンラインで

もうひとつの「MDAM」は一般の方はもちろん出版業界でもあまり馴染みがない名称だと思いますが、これはブラウザ上で雑誌の進行をすべて完結させるという集英社が開発したサービスです。2020年、コロナ禍で日本も働き方が大きく変わりましたが、これは雑誌編集部も同様。取材や打ち合わせがほぼオンラインになったことはまあ対応できなくはないですが、大容量のデザインデータのやり取りをしたり、色校正の出校、赤字修正の入った校正紙の受け渡しなど、出社しないと難しい作業もMDAMの導入でかなり容易になりました。原稿の執筆もMDAM上で行いますし、下版後はデータのウェブメディア利用のための加工も簡単です(全雑誌で導入しているわけではありません)。

「回れ右」をいとわない人、求む

もう10年、デジタルコンテンツに携わっているので私自身は変化に慣れっこになりましたが、とはいえMDAMの導入直後は泣きそうになりました。いきなり全記事をMDAM進行にするのは難しいと思ったので一部の記事からスタートし、その感想をアンケートで集めたのですが、編集者から届いたのは「使いづらい」「メリットがない」「早くやめるべき」といった否定的なものばかり。社内稟議を通し、多額な費用をかけてようやくはじめたMDAM、さてどうしようかと困惑しながら某編集長に相談に行くと「何とかなるんじゃないですか」とかなり楽観的なんですね。で、2か月も経つと編集長のいったとおりほぼすべての記事で問題なくMDAM利用で進行しているとのこと。悔し涙が嬉し涙に変わりましたね。いうことはいう、やることはやる、変えるときは変える。それこそが正しい姿勢なのだと実感しましたね。

出版社の主戦場はウェブに移りつつありますが、あわせて紙版が出せることが出版社にとって大きなメリットであることに変わりはありません。紙の手触りを、デジタルならどうすれば感じてもらえるのか、そのあたりをみなさんと一緒に考えたいなと思います。